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2025年9月28日更新

仙之助編 二十二の二


 仙之助のとんでもない思いつきを一番面白がったのがジムだった。

 ロングドライブの終着地であるアビリーンからカリフォルニアに向かう大陸横断鉄道に乗るには、ネブラスカ州のオマハまで行く必要がある。すると、ジムは気安く、アビリーンからオマハまでチャックワゴンで一緒に行ってやると言い出した。

 オマハは、仙之助と富三郎が伊藤博文の一行と別れた交通の要衝だった。

 最初にアビリーンをめざしたときは、荒野を馬やチャックワゴンで旅することなど想像もつかなかったから、セントルイス経由で開通したばかりの鉄道で到着したのだった。二年の月日が流れ、二人はすっかり一人前のカウボーイになっていた。

 フォートワースからのロングドライブでアビリーンに到着した仙之助は、トレール・ボスのサムから約束より多い十頭の牛を譲り受けた。全部船に乗せられなければ、サンフランシスコで売ればいいと言われた。テキサスの牛は、どこでもそれなりの値段で取引される。貨車の値段も多少数が増えても変わらないはずだとサムは言った。
「ジョンセン、本当にこいつらを船に乗せて太平洋を渡るのか」
「もちろんです。テキサスロングホーンを日本でも有名にしたいんです」
「ほお、勇ましいことを言いやがる。」

 ジムが仙之助の肩を抱きながら、サムとの間に入って言う。
「ジョンセンは太平洋で捕鯨船に乗っていた男だぞ。クジラを捕るのに比べたら、牛を船に乗せるなんぞ、造作もないさ。なあ」

 富三郎も彼らの勢いに押されて、サンフランシスコまでの旅の同行の覚悟を決めたようだった。牛を引き取って、最後の夜をアビリーンで過ごした。

 オマハまで二人を送り届けた後、ジムは懐かしのブルズ・ヘッド・サルーンで、また働くことにしたらしい。その夜もカウンターに入って酒や料理を準備していた。
「お前らといい夢を見させてもらったよ。ジョーイも天国で、いや天国に行っているかどうかわからねえが、同じ気持ちだと思うよ。お前らがいなかったら、俺たち死に損ないがロングドライブに行くことはなかったさ」
「私たちこそ、何も知らずに牛の町に来て、もしジョーイとジムに出会えなかったら、カウボーイになんてなれなかったです」
「ハハハハ、トミーはともかく、馬もろくに扱えなかったジョンセンが、いっぱしのカウボーイになるとは思わなかったぜ」
「ありがとうございました」
「礼なら天国のジョーイに言ってくれ」
「はい……」
「おい、湿っぽい表情をするな。牛のロングドライブに加わる奴はごまんといるが、牛のロングクルーズを企てる奴なんか、他にいやしねえ。冒険への選別だ」

 そう言って、ジムはウィスキーのグラスを仙之助と富三郎の前においた。